今年もインフルエンザの流行が始まり、当院でもインフルエンザの患者さんが増えてきております。
以前も「インフルエンザには気をつけつつ、恐れすぎず」ということで、インフルエンザは必ずしもタミフルなどの抗ウイルス剤がないと治らない病気でないことをお知らせしました。
当院では、軽症で基礎疾患(糖尿病、免疫不全などの疾患)がない方には基本的に抗ウイルス薬の処方は行っておりませんが、実際インフルエンザと診断されたのに「特効薬」をもらえないなんて不安だ、早く治したいのに、と思われるかもしれません。
その理由・根拠について当院の治療方針も示しつつ説明したいと思います。
インフルエンザに抗ウイルス剤を使わないメリットは?
まず、インフルエンザなどのウイルス感染症が「治る」とはどういうことなのか考えてみましょう。
一旦ウイルスに感染すると、体の中でものすごい数のウイルスが増殖します。感染後3-5日程度でその数はピークになりますが、同時に体の中では免疫反応がおこり(ここで発熱する)「抗体」というウイルスをやっつける武器を生産しはじめますが、その抗体のおかげで徐々にウイルスの量が減り、1週間後くらいには膨大な数のウイルスもほぼ0となり収束します。
この、「免疫ができて」ウイルスがなくなった状態が「治った」ということなんです。
タミフル、リレンザ、イナビルなど、抗インフルエンザ薬はウイルス増殖を抑える働きがあるため、体の中のインフルエンザウイルスの数は少なくなります。そのため、薬を使わなかったときに比べ、体が作る抗体は少なくなってしまいます。
実際、動物実験や人での調査から、抗インフルエンザ薬を使用すると、IgAという感染防御に役立つ抗体の産生が抑えられることが知られています(Attenuation of inducible respiratory immune responses by oseltamivir treatment in mice infected with influenza A virus)。
またインフルエンザにかかった方で抗インフルエンザ薬を使った群と使わなかった群で翌シーズンのインフルエンザ再感染率を比較したところ、抗ウイルス薬を使わなかった群は9%だったが、使った群はタミフルで37%、リレンザで45%と有意によくシーズンインフルエンザにかかる率が高かったそうです。
軽症の患者さんでは、体が作る抗体がウイルスに対し優勢に戦いを進めている状態なのに、ここで抗ウイルス薬を使ってしまうと、せっかく頑張っていた抗体産生を体がサボってしまうことになり、強い免疫ができません。抗ウイルス薬でウイルスがなくなったとしても、抗体ができなければ「治った」とはいえず、「逃げた」という方が正しいかもしれません。そういう状態では今シーズンもう一度同じウイルスに感染してしまうかもしれませんし、来年また同じ苦しみを味わう可能性が高くなるのです。
ちょうど一生懸命つらい勉強をしている子供(=免疫)に、「しんどい事はやめて答え写しなさいよ」といってるようなものです。もちろん、勉強がきつすぎて病んでしまうくらいのとき(=免疫が弱っているとき)は無理をさせないことも(=抗ウイルス薬を使う)必要ですが。
また、弱い免疫しか持たない人が多くなるということは、ウイルスから見るとその集団は一気に増殖できる格好の「エサ場」なのです(集団免疫が落ちるといいます)。そうなると集団感染が起こり、結局は弱った方々が感染に晒され命に関わるリスクが増すわけです。それはちょうど今、弱者である妊婦を風疹感染から守るために、強者である周りの男性に予防接種を勧めているのと同じ話です。昨今インフルエンザの学級閉鎖など集団感染が年々多く発生しているのは、安易な抗インフルエンザ薬の使いすぎで集団免疫が落ちていることも原因としてあるかもしれません。
ウイルス感染において軽症ということは凄くラッキーなことなので、これをしっかり生かして、強い免疫バリアーを手に入れましょう!
「薬飲まないと治らないんじゃないか」
と不安になることもあるかと思いますが、ゆっくり休んでいればあなたの体には強い免疫が作られているのです。頑張っている自分の免疫システムを信頼してしっかり応援(安静、水分補給)してあげましょう。もちろん、呼吸が苦しい、意識障害がある、5日くらいたっても解熱しないなどの症状があれば再度受診しましょう。
要点:
- インフルエンザは抗ウイルス薬を使わなくても治る病気です
- 抗ウイルス薬を使わず治癒すると強い免疫を獲得でき、再感染の危険性が減ります
- インフルエンザにかかったら、ゆっくり休んで体が免疫を獲得する作業を邪魔しないようにしましょう