花粉症は注射1本で治る?
花粉症に対するステロイド注射治療(ケナコルトA)について
先日鼻血が大量に出て止まらないという血だらけの患者さんが飛び込みで受診されました。
鼻を見ると、ドクドクと拍動性に血が噴出しており、何とか圧迫後電気凝固器で粘膜を焼いて止めることができましたが、かなり辛そうです。
その患者さんにお話を聞いてみると、約10年以上前から毎年花粉症のためにステロイドであるケナコルトAの注射を受けているとのことです。
顔は明らかに「ムーンフェイス(満月様顔貌)」で、目も血走っています。
血液検査を薦め翌日再診するよう説明しましたが、その後再診もされず、生きているのか死んでしまってるのかどうなったかわかりません。
鼻血が止まらないくらいですんだらいいのですが、頭の中で出血しなければいいけどなと思いました。
この方以外にも花粉症に毎年ステロイドの注射を打っているという人が来られますが、皆さんその危険性を認識されていないように思います。 わかっている副作用をあげてみますと、
- 感染症(カビや命に関わる感染症)や副腎機能不全(体がだるくなったり死ぬことがあります)
- 皮下注射箇所の筋肉の萎縮・陥没(頻度が高い)
- 糖尿病(起こる可能性が高い)
- 胃潰瘍や十二指腸潰瘍
- 高血圧
- 肝機能障害
- 緑内障(視力、視野障害)
- 精神障害(うつ病)、全身倦怠感(リバウンド現象)
- 骨粗鬆症(骨密度が低下する)
- 生殖機能障害
- 生理が止まってしまたり、逆に止まらなくなることがある
- 満月様顔貌、顔面紅斑
などがあります。
「そんな大げさな。毎年打ってるけど大丈夫だよ」
という人もいるかもしれませんが、 上記の副作用が出ているか、自分でわかるでしょうか? 注射部位の陥没や、生理異常はわかるかもしれませんが、
それ以外はなかなか自分ではわかりませんし、一旦出てしまうと治すのが難しい副作用ばかりです。
厚生労働省のホームページによりますと、
デポステロイド筋注は保険で認められていますが、問題は副作用です。 ケナコルトAを1バイアル(40mg)筋注しますと、血中濃度は筋注後3時間でピークとなり、 その後3週間まで有効濃度が維持されます。 一方、血中コルチゾール値は筋注後2週間の間0となり、副腎皮質機能の抑制は3〜4週間続きます。 また、排卵に与える影響については、卵胞期初期に投与した場合には排卵は2週間以上抑制され、 再開は3〜6週後になると報告されています。2000年に行われました花粉症患者さんを対象とした 調査では545名中12.7%の方が本治療の経験がありましたが、その効果に対する満足度は他の治療法 に比較してむしろ低値であり、かつ1シーズンに3回以上筋注を受けていた方が37.5%もあり、さらに 副作用について説明を受けている方は40.6%にすぎませんでした。他に副作用の少ない治療法が多数 あり、本治療法は一般的にはすすめられません。患者さんの強い希望により使用する場合でも副作用 の可能性、禁忌疾患(高血圧、糖尿病、感染症、緑内障、白内障など)の有無を確認し、十分なイン フォームドコンセントを得る必要があります。
とあります。
要は噂ほど効かないし、不可逆性の副作用もあるので割に合わない治療ということです。
多くの医療関係者や患者、その他識者が危ないから止めろと言っているものを、強いてやろうというのなら、
それは患者のご自由なのかもしれませんが、これらのリスクがあって寿命を縮める可能性があるということは
認識して欲しいものです。
最近は内服薬も従来の抗ヒスタミン剤だけでなく、抗ロイコトリエン薬など眠気が少なく効果が高いものが多く出ており、ステロイドを使わざるをえない人はきわめてまれです。
それでもステロイドを使いたいのなら、容量調節(症状が軽いときや副作用が出たときに薬を減らす)ができる内服薬で飲むべきでしょう。
「注射一本で花粉症が治る」
といった誤った情報に惑わされないよう注意しましょう。